「知財起点」と「事業者起点」

2018/12/10 投稿

 2004年にスタートした特許庁の地域中小企業知的財産戦略支援事業以降、多くの中小企業向けの知財支援事業に関わらせていただいている関係から、過去15年くらいの公的な知財支援制度の変遷について、インタビューを受ける機会がありました。

 その際に、改めてこれまでの取組みを振り返ってみて気づいたのが、2008~2010年頃に集中的に実施した先進事例ヒアリングを通じてまとめた知的財産経営プランニングブック(2011年3月特許庁発行)が、大きなターニングポイントになったのではないか、ということです。

 2002年の政府の「知財立国」宣言以降、経営に資する知財戦略の推進が各所で言われるようになり、中小企業の知財マネジメントにも「経営」の視点が求められるようになりましたが、初期の知財支援施策は、「知財マネジメントとはこういうものだ、成功パターンはこうだから、こういう風にやってください」という、「知財起点」の発想に基づいていたように思います。
 そしてその成功パターンとは、「知財権で事業の参入障壁を築き、高いシェアと利益率を実現する」という考え方に基づくものでした。

 2008~2010年にかけて集中的に実施した中小企業の先進事例ヒアリングでは、多くの中小企業経営者のお話を伺う中で、企業によって事業モデル・成功パターンは様々であり、その中で知財マネジメントの果たす役割も多様なものであることに気づかされました。知財実務から入ると、どうしても排他的な「知財権」の「法的効果」に囚われてしまいがちですが、リアルな企業活動の一部である「知財マネジメント」という活動の「事実上の効果(法が予定していない効果)」には、より多くのバリエーションがあります。

 我々には、こうした知財マネジメントの多様な効果を理解した上で、企業の経営課題に向き合い、各々の企業の課題に応えるための知財マネジメントのあり方を考えていくことが求められています。その際に、知財マネジメントの効果を「知財権で事業の参入障壁を築き、高いシェアと利益率を実現する」という典型例のみに限定してしまうと、そうした事業モデルを目指して競合対策に頭を悩ませている企業にしか、知財マネジメントの意義が刺さらなくなってしまいますが、引き出し(=知財マネジメントの効果)を増やせば増やすだけ、様々な課題を抱える企業の悩みに応えることができるはずです。
 知財権の排他的な効果を活かすというワンパターンの引き出ししか持っていないと、「今は大丈夫でも、いずれ模倣品が出てきたら大変ですよね、権利侵害で訴えられたらどうするのですか?」と、こちらで勝手に経営課題を作ってしまうことになりかねません。

 企業の悩みを聞き、経営課題を的確に把握した上で、「それならば、知財マネジメントでこういうサポートをできますよ」と応じるアプローチが、「事業者起点」の知財支援です。

 では、知財マネジメントにはどのような効果を期待できるのか。それを具体的に整理したのが、知的財産経営プランニングブックに掲載した

①   無形資産を「見える化」する
②   無形資産を「財産化」する
③   創意工夫を促進して社内を「活性化」する
④   競合間における競争力を強化する
⑤   取引者間における主導権を確保する
⑥   顧客の安心を保障する
⑦   自社の強みを顧客に伝える
⑧   協力関係をつなぐ

という知財マネジメントの8つの効果です。
 このうち①~③は、産業財産権の取得やノウハウ管理等の知財に「形をつける」段階で発生する、企業の内部における効果であり、④~⑧は知財権を権利行使や交渉、PRなどの場面で「外部にはたらかせる」段階で発生する、企業の外部に対する効果となりますが、こうした効果の関係を示したのが下の図です。

 この図において、企業が目指す最終的な目的は、競合排除ではなく顧客との強い結びつきです。このようように知財のはたらきをイメージしながら、知財の切り口から対応できる引き出しを数多く用意しておくことで、知財マネジメントによって対応可能な企業の経営課題の幅も広がります。
 知財マネジメントによって自社の知財を有効に活用する企業の裾野を広げるためには、いたずらに恐怖感を煽るより、こうした知財マネジメントの多様な効果を伝えていくことが、より効果的であるはずです。

 こうした考え方に基づき、中小企業の多様な悩みに対して、知財という切り口で応えていこうという目的で2011年度にスタートしたのが、各都道府県に設置された知財総合支援窓口です。知財総合支援窓口を中心に展開される公的な知財支援施策には、こうした「知財起点」と「事業者起点」の違いをよく認識した上で、事業者目線での対応が求められているのではないでしょうか。

 

(「事業者中心の知財デザイン」 に続く)