「事業者中心」の知財デザイン

2018/12/10 投稿

 先のコラムで説明した「事業者起点」の考え方に基づいて、私が力を入れて取り組んでいるのが、2010年以降、各地の経済産業局等の主催で開催している「知財塾(知財経営塾)」です。

 知財塾とは、全4~5回程度の地域の中小企業5者前後が参加するワークショップで、参加企業各社の経営課題に応じた知財マネジメントの骨子を作成することを目的に開催しています。
 知財塾は、前回のコラムで説明した知財マネジメントの多様な効果を、具体的な中小企業の例を挙げながら解説することからスタートします。その後は、座学でケーススタディなどを行うとともに、講師が参加企業を訪問して、参加者以外の社員の皆さんとディスカッションする時間も設けるようにしています。その過程を通じて参加企業各社が取りまとめた、各社の経営課題に応じた知財マネジメントの目的や具体的な進め方に関する知財戦略の骨子を、最終回に発表していただく、というプログラムになっています。
 主に当初からのコンビである木戸基文弁理士と一緒に、昨年度までに16地域(23回)で開催、今年度も秋田と静岡(三島)で開催しました(年明けからは長野で開催予定)。

 当初は、経営課題の抽出とそれに応じた知財マネジメントの設計に重点を置いていたのですが、回を重ねるうちに、そもそもその企業の競争力の源となる、その企業に固有の「知的財産」とは何なのかを把握し、その「知的財産」を生かしてどのような事業モデルを実現するかをデザインすることが重要と考えるようになりました。

 そこで、各企業の発表資料の中に含めているのが、以下のような知的財産を活用した事業モデルのイメージ図です。

 この例は、下請け型のメーカーが、蓄積したノウハウから自社製品(特許を取得)を開発、その製品で新規顧客を開拓して経営の安定化を図るとともに、自社製品が従業員のモチベーションとなり、技術者のスキルアップや新製品の提案にも生きてくる、さらに特許権の取得がライセンスによる生産委託先との提携にも効果を発揮する、という事業モデルにおける知財の位置づけを見える化したものです。
 経営者へのヒアリングや社員の皆さんとの議論を通じて、こうした事業モデルをデザインする工程が、知財マネジメントを意味のあるものにする上で、とても有益であると感じています。

 知財塾で作成しているこうした事業モデルの図と、前回のコラムで説明した知財マネジメントの多様な効果を示す以下の図を比べてみて、気づいたことがあります。

 上の図は「事業者起点」であると言いながら、実はその中心には知財があり、知財の働きを示した「知財中心」の「知財デザイン」であるということです。それに対して、知財塾で作成している事業モデルの図は、「事業者」を中心に、ステークホルダーとの関係を作るのに、知財をどのように活かしていくかという、「事業者中心」の「知財デザイン」になっています。

 昨今、企業経営におけるデザインの重要性が叫ばれる中、デザインは物中心ではなく「人間中心」であることが重要と言われていますが、企業経営における知財のあり方を考える「知財デザイン」についても同じことが言えるはずです。中小企業に対する知財マネジメントの普及啓発を促進するためには、「事業者中心」の「知財デザイン」の発想が求められているのではないでしょうか。

 先日、知財支援のあり方について議論したある機会に、こうした「事業者中心」の「知財デザイン」の必要性に気づかされました。
 具体的には、事業者を中心に事業のデザインを考える場合に、初めに登場するのは、顧客、従業員、パートナー等のステークホルダーと、ライバルとなる競合企業です。これらを自社の周りに配置し、各々との関係でどのような課題があるかを整理した上で、各々の課題に対して知財マネジメントで対応できる部分がないかを考える、というアプローチです。
 このアプローチであれば、中小企業の経営者はもちろんのこと、金融機関、中小企業支援機関、税理士や経営コンサルタントなどの他の関係者とも、共通の土俵で議論をスタートできるはずです。
 こうした「事業者中心」の「知財デザイン」のアプローチが、中小企業の知財支援のネクストステージとなり得るのではないでしょうか。

 知財戦略本部が提案している「経営デザインシート」も「事業者中心」のアプローチが共通しており、知財塾で作成する事業モデルが、ステークホルダーとの関係を見える化する「空間的」なデザインであるのに対して、経営デザインシートは価値創造メカニズムの未来像を考える「経時的」なデザインであると言えるでしょう。経営デザインシートについては、また日を改めて考えたいと思います。

 

(「妥協せず、やり抜くこと」 に続く)